嘘よりも真実よりも



 22時ちょうどに電話をかけると、3コール目でつながった。

「はい、金城です」

 落ち着いた声が耳に届くと、全身に緊張が走る。

 彼は私をどう思ってるんだろう。待ってると言ってくれたのに行かなかった私を、快く思ってるはずないのに仕事の依頼をしてくるなんて。

「久我みちるです。六花社から連絡をいただきまして、お電話しました」
「あ、ああ、みちるさん」

 ホッと安堵して、彼は声を和らげた。

「みちるさんでよかったです。正直、違う方かもしれないと、よぎらないでもなかったので」

 総司さんは、みちる、という名前だけで、私にたどり着いたみたい。

「ごめんなさい。久我みちるとして翻訳家をしています。あまり、積極的に活動していないものですから」
「謝らないでください。早速ですが、明日会えますか?」
「はい、大丈夫です。でもあの、勝手なのですが、打ち合わせはホテルのロビーでと決めています。こちらで指定させてもらっても大丈夫でしょうか」
「それはもちろん。では、どちらで?」
「アザレアホテルで、12時に」

 富山グループが運営するアザレアホテルは、私が唯一気軽に出入りするホテルだった。誰と会っていても、妙なうわさを立てられることはなく、安心して利用できる。

「わかりました。12時少しすぎるかもしれませんが、必ずうかがいます」
「よろしくお願いします。それでは、明日の12時すぎに」
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