嘘よりも真実よりも
***


 約束の時間より早めにアザレアホテルに到着した私は、ロビーラウンジで総司さんを待っていた。

 ビジネス街にあるアザレアホテルは、サラリーマンがよく商談に利用している。平日のお昼時ではあるが、ラウンジ内もスーツ姿の男性が多く見られた。

 約束の時間を5分過ぎた時、ラウンジに総司さんは現れた。立ち上がると、彼は私に気づいて、足早にやってくる。はじめて出会った時と変わらない、颯爽とした彼が柔らかな笑みを浮かべると、どこか恥ずかしい気持ちになる。

 とても素敵な人だろう。私にはもったいないような。心惹かれる気持ちと、受け入れたらいけないんだって気持ちが同時に強くなる。

「お待たせしました。どうぞ、座ってください」

 うながされて腰を下ろし、メニュー表を開く。

「金城さんは何を飲まれますか?」
「俺はコーヒーで。みちるさんは」
「私も同じもので」

 すぐに彼はコーヒーをふたつ注文し、バッグから書類を取り出す。

 彼のスマートな仕草にはそつがなく、品の良さを目の当たりにすると、ますます心がかたくなになっていく。

「早速ですが、お願いしたいのはwebサイトの翻訳になります。サンプルをご用意しましたので、一度目を通していただけますか」

 差し出された書類を両手で受け取り、視線を落とす。

 どうやって断ろう。ずっとそればかり考えていたけれど、webサイトの翻訳と聞いて、安堵してる私がいる。

 一通り、書類に目を通し、ゆっくり閉じる。
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