嘘よりも真実よりも
 だから、言ったのかもしれない。大切なものを、人を、見誤ったらいけないと。

「万里さんに好きな人ができたのは、責めるようなことじゃないよ」
「でも、妊娠した母を大切にしないような男です、父は」
「みちる……」

 車はデパート前のパーキングに静かに停車した。

 仁志さんは身体をひねらせて、私の顔をのぞき込む。

「逃げ出したのは、万里さんの方だよ」
「え……」

 瞳が大きく揺れた。痛ましそうに私を見つめる仁志さんが、ゆっくりうなずく。

「万里さんは大変だった。相手が相手だからね。マスコミに追いかけ回されて、まいっていく姿を見るのは辛かったと、母も言っていた。あの人だって、万里さんに会いたかったと思うよ。だから俺は、いつかみちるを迎えに来てくれると信じてた。そうじゃなかったと知った時は失望したけど、当時、あの人が万里さんに会わない決意をしたのは、万里さんのためだった」
「父は……母に会わないことで、母を守ったって言うんですか」

 バッグの上でぎゅっと手を握り締めると、落ち着かせようと、仁志さんは優しく手のひらで包んでくれた。

「みちるは違う? デートの約束なら、行っていいんだよ」
「仁志さん……」
「このところ、みちるの様子がおかしいから、清貴に聞いた。金城さんなら、俺も知ってる」

 ハッと息を飲むと、彼は苦しげに眉を寄せる。

「前の男は、正直反対だった。清貴のお節介で、好きでもないのに付き合ったんだろう? 金城さんは違うよね?」
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