嘘よりも真実よりも
「なっていいって……」

 私を腕の中から解放した仁志さんは、私の目尻を親指でぬぐう。いつの間にか、まつげが涙でぬれていた。

「富山みちるとして、金城さんに会うといい」
「嘘をつけって言うんですか」
「金城さんの誤解をといてないんだろう? 沈黙と嘘は同じだよ」

 富山じゃないことを知られたくなくて、黙っていた。それさえも見透かされていた。

「いつか、本当のことが言える日が来るよ。それまで、富山みちるでいるんだ。金城さんは、みちるを変えてくれる人だと思うからこそだよ」
「変えてくれる……?」
「ああ。清貴は変われと言うだろう? でも、変われなかっただろう? だから俺は、変わらなくていいって思ってるよ。今のままのみちるで、じゅうぶん魅力的だから。金城さんはどうかな。金城さんは今のみちるが好きだろうけど、彼に好きになってもらえるような女性になりたいって、みちるは変わろうとしてるんじゃないかな」
「……金城さんにつり合う女性になれますか?」
「以前のみちるだったら、金城さんに会おうともしなかっただろう。もう、変われてるよ」

 私は変わっただろうか。そんな自覚は少しもなくて。

 ただただ仁志さんを傷つけてるだけなんじゃないかって、私も傷ついて、動けないでいるだけのような気がしているのに。

「ダメだと思ったら、帰っておいで。みちるの居場所は、いつだって富山にあるよ」
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