嘘よりも真実よりも



 何時でもかまわないので、来てください。
 待っています。

 総司さんのメールには、そう書かれていた。

 スマホを握りしめて、アザレアホテルへ向かって走った。まだ待っていてくれてるだろうか。誰かに会うために心を乱すなんて、久しぶりだった。

 アザレアホテルのロビーは、平日とは別の顔を見せていた。家族連れやカップルが多くいるロビーの中を進む。

 ロビーにある絵画の前で、総司さんは待っていると言ってくれた。ラウンジの前を通り、壁面に飾られた大きな絵画へ足早に向かう。

「みちるさんっ」

 後ろから突然手首をつかまれて驚いた。ハッと振り返ると、総司さんが真剣な眼差しを私に向けていた。

「金城さん……ごめんなさい。ずいぶん遅れてしまって……」
「遅れると、連絡くれたじゃないですか」

 彼は表情を和らげて、手首から指を外す。

「実は、仁志さんとお出かけすることになって」
「お兄さんと? そうですか。用事は済んだんですか?」

 お兄さん、だなんて、やっぱり誤解してる。

 仁志さんは私にちょっと意地悪をした。まだ待ち合わせに間に合う時間だったのに、スーツを1着見立ててほしいと言った。

 プロポーズを断るなら、願いを一つだけ聞いて欲しいなんて、らしくない意地悪だった。

 1時間以上遅れて来たのに、兄と会っていただけ、なんて言い訳を、総司さんは簡単に信じた。胸がちくりと痛んだ。彼に嘘をつくのは嫌だった。だけど、黙っているのも、嘘をつくのと同等だった。
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