嘘よりも真実よりも



 美術館を出ると、辺りは薄暗くなっていた。思ったよりも混雑していた美術館の中を、ゆっくり見てまわっていたからだろう。

 総司さんと過ごす時間は穏やかだった。時折、彼は絵画を指さして、好きな作品を教えてくれた。優しい雰囲気の絵画が好きなようだった。

「みちるさんは好きな画家とかいらっしゃるんですか?」

 美術館を出たところで、総司さんは尋ねてきた。

「好きな画家というより、優しい絵画が好きです。深い愛に包まれたら、こんな気持ちになるのかなって感じられるような、優しいもの」
「そうですか」
「絵画も音楽も……なんでも、優しいものが好きです」

 愛に飢えた私は優しさを求めてるのだろうか。だから、総司さんにも惹かれるのだろう。

 自然と笑みがこぼれると、彼は急に足を止めて、私のほおに触れた。

「みちるさ……」
「あれ? 総司?」

 不意に、後ろから声をかけられた。

「あ、ああ、幹斗(みきと)か」

 総司さんはそっと私を後ろ手に回すと、軽やかな足取りで近づいてきた青年と向かい合う。

「今日は休みか。社畜のおまえが珍しいな」
「そうでもないよ」
「本当かよ」

 幹斗と呼ばれた青年は、おかしそうに笑い、ひょこっと総司さんの後ろに隠れる私をのぞき込む。

「はじめまして。三好(みよし)幹斗です」

 私は無言で頭を下げた。人好きのする顔の青年だったけど、ありありとわかる好奇心むき出しの笑顔に警戒心を抱いた。

 あまりの反応のなさに拍子抜けしたのか、彼はちょっと首をひねると、総司さんに目を戻す。

「こんなに綺麗な彼女がいるなんて聞いてなかったよ」
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