嘘よりも真実よりも
***


 ホテルのカフェで朝食をすませて帰宅すると、富山の家には誰もいなかった。それはそうだろう。時刻は朝の10時を過ぎている。

 さっきまで、総司さんと一緒に過ごしていた。仕事は間に合ったのだろうか。彼は大丈夫と言っていたけれど、優しい彼のことだから、耳ざわりのいい言葉すべてを鵜呑みにしてはいけないだろう。

 これ以上、総司さんの足手まといになりたくない。彼と過ごす時間に幸せを感じてしまったからこそ、余計に強くそう思ってしまう。

 グラスに水を注いで、リビングのテレビをつける。テーブルについて、口もとにグラスを運ぼうとした手を止めた。

 画面いっぱいに、四乃森直己が映し出されていた。

 彼が父親だと知ったのは、母の万里が亡くなった後だった。母親代わりとなった富山未知子が、父親が引き取るというなら一緒に暮らすか? と尋ねてきて、はじめて父が生きていることを知った。

 正直、どうしたらいいかわからなくて、富山の家にいたい、と言った。幼い私では決められないことだった。

 しかし、年齢を重ねるにつれ、父親への好奇心が生まれた。どんな人だろう。そう思って、未知子に尋ねたら、テレビに出ている人よ、と教えてくれた。

 四乃森直己を画面越しにはじめて見た日は忘れない。目もとや鼻の形が、私とよく似ていた。彼の娘だって、知ってる人が見たら納得するぐらいに、私たちは似ていた。

 母は父親が誰なのか隠そうとしていた。
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