嘘よりも真実よりも
『あなたのお父さんの名前は、久我直己よ。みちると名付けたのも、直己さん。みちるによく似た人なの。ねぇ、みちる。絶対にお父さんの名前を言ったらダメよ。誰に聞かれても、知らないって言うのよ』

 子守唄を聞かせるように、母は折に触れて私にそう言い聞かせた。

 子ども心に、父のことは母とふたりだけの秘密、という思いが芽生えていた。

 そして、父の姓を持つ私が、相楽の名で生きる母と一緒に暮らしているのは、父親が亡くなっているからだと勝手に思い込んでいた。

 父が生きていると知った日から、私は相楽みちるでも、久我みちるでもないのだと思うようになった。

 私は父に捨てられたのだ。

 母が死んで、私は富山の家にいたいと言ったけれど、本当に私を愛してるなら父は迎えにきただろう。でも、来なかった。久我の姓だけ、形ばかり私に与え、彼はいつもテレビ画面の中で輝いていた。

 私と万里はいなかったものとして、四乃森直己は名俳優への道を邁進した。

「四乃森さん、改めまして、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」

 映画の完成報告会見に現れた四乃森直己は、人気女優と肩を並べていた。たくさんの報道陣の見守る中、彼は記者の声かけに控えめに頭を下げた。

「このたびの映画は、結婚を控えた娘の父親役ということですが、役作りなど難しいところはありましたか?」

 記者の質問に、直己は穏やかに笑んで答える。

「もう50になりますが、私には子どもがおりませんので、もし子どもがいたら、と想像しながら演じさせてもらいました」
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