嘘よりも真実よりも
 私は変わっただろうか。
 ひとりで何にもできないのに、ひとりでやろうとする精神は変わらないように思う。

 でも、清貴さんがそう言うのだから、私は変わったのだろう。いい方向へ変わったなら、やっぱりそれは、総司さんのおかげだろうか。

 清貴さんは白い封筒をスーツの内側へ入れると、会社に戻ると言って出ていった。

 水を飲み干した私は、部屋へ戻り、出かける準備をした。仁志さんとランチをする約束がある。四乃森直己の妻について、知らされるのだろう。

 父について知りたいことは何もなかった。幸せに暮らしてくれてるならそれでいい、なんて感情もない。ただ時々、どうして母と一緒に暮らせなかったのか、と思いを巡らせることはある。

 少なくとも母は、父を愛していた。今となっては、そう思う。

 富山ビルのロビーに到着した時には、ちょうど昼休憩の時間で、エレベーターから多くの人々が入り口に向かって歩いてきていた。

 流れに逆らうように人波を抜けていくと、受付の女性が私に視線を向けているのに気づいた。

 とっさに、総司さんが言っていた女性だろうと思った。彼の友人である三好幹斗さんが、一緒に飲み会に行くと言っていた女性だ。

 名前はなんだっただろう。無関心に聞いていたから忘れてしまった。

 受付の前を通ると、私に向けられている視線の異様さに気づいた。なんとなく私を見ているのではなく、凝視してるみたいだった。まるで張り付くような。

 街を歩いているときに、無用な視線を向けられるのには慣れていた。だから、好奇心の視線なのか、私という人を知っていて、何か探ろうとしてる視線なのかの違いは、学生時代からなんとなく察することができた。
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