嘘よりも真実よりも
 椎名さゆみから私のことを聞いて知ってるのだろうか。それなら、あの視線に納得がいく。だけど、なぜだろう。なぜ、私の顔を彼女が知っているのか。

「みちる?」

 けげんそうに私を見つめる仁志さんに気づいて、笑顔を取り繕う。

「今日も受付にいらっしゃった方ですね。お話をしたことはないんですけれど」
「気をつかって話さなくていいよ。みちるはこれまで通り、過ごすといい」
「あの、椎名さんは私を……?」
「どうだろう。直己さんが話してるかどうかまではわからない」
「そうですか……」

 差出人のない真っ白な手紙を思い出す。
 私が富山の屋敷に暮らしてるのを知ってる人は限られている。あの住所や宛先を書ける人物は、四乃森直己以外にないのではないか。そう思うけれど、彼が内容のない手紙を寄越す意味もわからない。

 だったら、椎名さゆみだろうか。
 その疑念は晴れそうにない。

「みちるも、思うところはあるだろうけど、あまり思い悩まないように」
「はい、大丈夫です。あの人と関わることはないと思ってますから」
「……そう。でもね、血は水よりも濃いんだよ。会いたくなったら、相談しなさい」
「会いたくなる日なんて、来るんでしょうか」
「そうだね。たとえば、紹介したい人ができるとか」

 仁志さんは穏やかにそう言って、続ける。

「金城さんとはよく会ってるようだけど、どう?」

 ほんの少し複雑そうな表情を見せる仁志さんは、まだ私をひとりの女性として見てくれてるのかもしれない。
< 85 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop