嘘よりも真実よりも
***


 富山ビルの入り口を出ると、白い息が鼻先をかすめていった。もうすぐ11月が終わる。肌を刺すような冷たさに肩をすくめ、ポケットからスマホを取り出す。

 週末はみちるに会えるだろうか。
 来月はクリスマスもある。彼女を喜ばせるプランはすでに考えてあった。

 誕生日はまだ聞いてなかったな、なんて思いながら、週末の約束を取り付けようと、メールを打ち込んでいく。

 俺はまだ、彼女について知らないことがたくさんある。

「金城さんっ、今からお帰りですか?」

 送信ボタンを押そうとした時、椎名彩香がひょこっと俺の前に顔をのぞかせた。

「ああ、椎名さん。椎名さんも?」
「はい」
「今日は遅いんだね。おつかれさま」

 俺を待ってたのかもしれない。そう思いながらも、いつものように軽く受け流して一歩踏み出す。しかし、彩香は人懐こく俺にまとわりつく。

「金城さん、たまには一緒に飲みに行きません? この間、三好さんと飲み会したんですけど、金城さんも来るって聞いてたのにいらっしゃらなくて、残念に思ってたんです」
「あー、幹斗の誘いは受けたり受けなかったりでね」

 幹斗もいい加減なことを言ってるんだなと、苦笑いする。

「近くに美味しいイタリアンレストランがあるんです。行きません?」
「悪いね。今日はまっすぐ帰るよ」
「いつもお忙しそうですもんね。じゃあ、明日はどうですか?」
「明日のことは明日にならないとわからないから」
「じゃあ、いつならいいんですか?」

 前に回り込んできた彼女は道を塞いで、俺を見上げる。そのまなざしは強くて、まっすぐだった。

 彩香が真剣なら、俺だって誠意を持って接するしかない。

「……そうだね。彼女に悪いから、女性とふたりきりで飲みには行けない」
「意外と、律儀なんですね」
「律儀か。まあ……、そうかな」

 内心、ちょっと笑ってしまった。
 これまではどうだっただろう。みちるだけは特別な気がしている。彼女に愛想を尽かされたくなくて、軽率な行動を取らないよう、いつも以上に注意している。
< 87 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop