嘘よりも真実よりも
「いや、まだ聞いてなかったと思ってね。みちるをもっとよく知りたいんだ」
「……そう、ですか」

 どこか沈んだ声が返ってくる。

「みちるも、なんでも聞いてくれたらいい」
「……総司さんはご兄弟がいらっしゃらないって言ってましたよね?」

 間を置いてから、みちるはそう尋ねてきた。いま、一番気になることがそれなのだろうか。

「ああ、いない。気になる?」

 家族構成を気にするなら、結婚を考えたりしてくれてるんだろうか。

 俺ももう31歳。そろそろ落ち着いてもいいかと思う時もある。俺は金城の跡取りで、いずれは会社も継ぐ。富山不動産のご令嬢が結婚相手となれば、親族も納得するだろう。

「みちるはお兄さんがふたりだね」

 彩香の言葉を真に受けたわけじゃないが、さりげなく穏やかに念を押すと、彼女は「はい……」とか細い声で返事をした。

 まるで、泣いてるような声だ。

「今日会うのは、無理だよね」
「……ごめんなさい。明日までに終えないといけないお仕事が少しだけ残っていて」
「いや、いいんだ。聞いてみただけだから。また会える日を楽しみにしてる」
「はい、私も。総司さんに会いたいです」

 その言葉が聞けただけで十分だ。

 出会った時からお互いに惹かれていたのに、みちるはその気配すら感じさせなかった。今はこうして、ストレートに会いたいと言ってくれる。

「じゃあ、あさって、11時に」
「はい。11時に」

 俺たちはそう約束して電話を切った。約束の11時が永遠に来ないなんて、この時の俺たちはまだ知らなかった。
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