嘘よりも真実よりも
「相手方に付き合ってやる義理はないけどな、たまにはカランコエの料理が食べたくなったんだ」

 ちょっとあきれ顔見せる私の肩に手を置くと、彼は顔を寄せてささやく。

「もちろん、みちるが一番心配だから来たんだよ」
「楽しんでるみたいです」
「あんまり深刻にならないタイプなだけさ」
「富山様、お待たせいたしました。ご案内いたします。どうぞこちらへ」

 戻ってきたグリーターに、私たちは店内の奥まった席に案内された。

 窓際の景色のいい席をうらめしそうに清貴さんは横目で見やったが、手紙の主がなるべく人目に触れない場所を選んだのだろうと、私たちは無言で席に着いた。

「あと、1分だな」

 袖をわずかにあげて、腕時計を確認する。

「清貴さんがいたら驚かれますね」
「みちる一人で来いなんて書いてなかったから大丈夫だろ」
「そういうものですか?」
「そういうもの。みちるは人が良すぎるんだ」

 そう言って笑う清貴さんの後ろに、ふと視線を向ける。不意に現れたのは、ひとりの女性だった。

 あ、と声にならない声をあげると、清貴さんも振り返る。

「あれ? 椎名さゆみじゃない方か」

 彼のずけずけとした物言いで、彼女はやや顔をしかめる。

「椎名彩香です。富山清貴さんですね? それと、久我みちるさん」

 清貴さんはにやにやするばかりだが、私は小さく頭を下げる。

「富山ビルの受付嬢がみちるを呼び出すにしては、手の込んだやり方だな」
「仕方なかったんです。久我さんは定期的にいらっしゃるわけじゃないし」
「それに、金城総司に知られたくなかった?」

 ますますにやつく彼を、不愉快そうに彩香さんはにらみつけ、私たちの向かい側の席に座った。

「富山さんがいらっしゃるとは思いませんでした」
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