いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 帰宅して泰章が帰ってきているかが問題だったが、珍しく史織よりも早く帰っていたようだった。

「よかったですね、奥様。久しぶりに旦那様とお食事ができますね」

 光恵がにこやかに言ってくれるのも無理はなく、一緒に夕食の席につくのは四日ぶり。夕食の時間に家にいても、彼が書斎から出てこないまま史織の食事が終わってしまうこともある。

 食事の時にお礼のケーキをもらった話をしようかとも思ったが、薫もいるだろうし、家政婦も食堂に出入りをする。人前でしない方がいいと考え、帰ってきて一番に書斎のドアを叩いた。

「泰章さん、史織です。ちょっといいですか?」

 仕事中にコーヒーを持ってくる時は、ドアの外で声をかけると「どうぞ」と声がする。今回は声がする前にドアが開いた。

「なんだ? 食事なら内線で呼べば……」

「あ、すみません、違うんです。あの、これ」

 史織は両手で持っていたケーキボックスを掲げてみせる。

「今日はありがとうございました。これ泰章さんと一緒に食べてくれって、お店からいただいたんです。國吉さんが泰章さんにケーキを褒められたこと、とても喜んでいました。國吉さんが作ったフルーツタルトです」

「そうか。特に気に病んでいるようじゃなくてよかった」

 やはり泰章は、さりげなく國吉を激励してくれていたのだ。史織に馴れ馴れしいと牽制したこともあったというのに、実力はちゃんと認めてくれる。

「それを見せるために、帰ってきてすぐここへ来たのか? おかえり。頬は痛まないか?」

 バッグを持ったままなので帰宅してすぐに来たのだと気付いたのだろう。それだけじゃなく叩かれた頬まで気遣ってくれる。史織は嬉しくなった。

 そのせいか声のトーンも上がる。

「一緒には無理かもしれないから、後でコーヒーを持ってくる時に切りわけて出しますね。店長も褒めていたし、すごく楽しみなんです」

「いや、それなら食事の時にでも……」

 泰章の口調におだやかさを感じ、ふっと気持ちがゆるむ。その時……。

「いい加減にしなさい!」

 憤った声とともに、薫がふたりのあいだに身体を滑りこませたのだ。いきなりだったのでよけられなかったのもあるが、ケーキの箱が彼女にぶつかって弾き飛ばされてしまった。

 史織は一瞬動けなくなるもののすぐに薫を見る。彼女も驚いた顔で弾き飛ばされたケーキの箱を見ていた。

 戸惑う様子を見せながらも、薫は柳(りゅう)眉(び)を逆立て史織に目を向ける。

「しつこいわよ! お兄様が迷惑がっているのがわからないの!?」
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