いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「そんなことは言っていない!」

「言ってなくてもやってる! どうしてお母さんがたぶらかしたって決めつけるの! 一緒に失踪した人がそう言ったの!? 苦しんだぶん、誰かを苦しめてウサ晴らししたいからわたしを捕まえただけなんじゃないの!?」

 なんて卑屈なことを言っているんだろう。自分でも悲しくなってくる。けれど言葉が止まらない。心が暴走して、この状況から逃げたがっている。

 泰章に嫌われているんだという現実から、逃げたがっている……。

「こんなの……泰章さんだってつらいでしょう!」

「史織!」

 押さえつける手に力が入り、唇が押しつけられる。とっさにギュッとまぶたを閉じると、どんどん深くなって喰いつくように唇を貪られた。

 彼を押し戻そうとシャツの腕を掴むものの、くちづけの激しさと甘い痺れがそれ以上の抵抗を許さない。

 喉がうめき、漏れる吐息に切なさが宿る。声を出すのも億劫になるほど舌をいたぶられ、頭がぼんやりしてくる。

 気が付けばソファに押し倒され、服を脱がされかかっていた。

「やっ……だ……」

 きっと、こんな言葉も抵抗には聞こえていない。史織の身体が本気で抵抗をしていないからだ。

「やす……あき、さ……」

 嫌われているなら彼から離れたい、そう思うのに。彼がくれる甘い刺激に抗えない。

 素肌を滑る大きな手、快感の軌跡を作る唇も、彼のすべてを史織の身体が歓迎しているのを感じる。

 泰章に抱かれるのは久しぶり。実際、まだ三度目なのに、彼に触れられて刺激を与えられて、自分でも信じられないほど潤っていく。

「史織……」

 名前を呼ばれるだけでゾクゾクして、弾け飛んでしまいそうな快感がせり上がってくる。

 押し戻そうとしていた手はいつの間にか泰章の背中に回り、両腕でしっかりと抱きついて肌を重ね。

 史織は悲しさを忘れるまで、泰章の熱に犯され続けた。
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