いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 泰章が得た情報によれば、ふたりは随分と贔屓にしているホストがいるらしい。そのホストが自分の店を持ちたがっているという。

 失踪相手の女が見つかったら、烏丸家の問題とは別に、姉を苦しめられた姉妹の苦痛に対する慰謝料とか意味不明の言い分を通して、金を請求するつもりだったのだろう。

 その金がどこに流れるかは、お察しである。

 挙句に本人が見つからないなら娘に責任をとらせろと叫んだ。そんな言い分が通るはずなどない。福田も苦笑いだった。

 泰章が結婚相手として利用すると決裁し、それらの野望は崩れた。しかし、事業を創めたいから援助してくれないかと頼んできたのだ。史織に手を出させないためにも、考慮すると期待を持たせた返事をしておいたのだが……。

 結婚式の翌日、おもしろがって屋敷で待ち伏せし、史織にいやがらせをしたのは福田から聞いて知っている。食事会でその話題を出し、やんわりと牽制した。

 それでおとなしくしていればよかったものを、子どもじみた八つ当たりをするからこういうことになる。

 もともと、若いツバメを手懐けるための手伝いなどするつもりもなかったので、好都合ではある。

 これに懲りて、史織へのいやがらせを諦めればいいと願うばかり。

(……あの母の妹だしな……)

 我が母親ながら、それを考えると泰章も頭が痛いのである。

「ん……」

 小さくうめいて、史織が身じろぎをする。しつこく髪を撫ですぎただろうかと手を離すものの、もぞもぞと頭を擦りつけ続けて寝入ってしまった彼女に胸の奥をぎゅんぎゅんと刺激されっぱなしである。

(史織っ……かわいい……!)

 かわいすぎて手が震える。これが自分の妻なのだと思えば、自分は最高の果報者ではないだろうか。

 ワケアリの事情で妻にしたのではないのなら、史織の母に彼女を生み出してくれてありがとうと礼を言いたいくらいなのに。

(史織の……母親か……)

 今さらながら、どんな人物なのだろうと気になる。高級クラブで働いていたのは知っているし、調査結果から世話好きで明るい女性だったというのは聞いた。

 果たして、女手ひとつで頑張って育てたひとり娘を捨てて、男と失踪するような女性なのだろうか……。
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