いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 一緒にgateau gateauのケーキを食べながらおしゃべりできたら、どんなにいいだろう。

 つい妄想にトリップしそうになるものの、今はそんな場合ではない。史織は一階の応接室へと向かった。

 屋敷の中はシンッとしている。いつもならば夕食の用意や光恵の出迎えでもう少し音があるはずなのに。

(帰っちゃったのかな。でも泰章さんはなにも言ってなかったし)

 考え事をしながら応接室に入る。その瞬間、腕を勢いよく引っ張られた。

「きゃっ……!」

 誰もいないと思っていたし予想外だったのもあって、史織はバランスを崩しそのまま転倒する。しかし片腕を掴まれたままだったこともあって、両膝と片手だけが絨毯についた。

「やだ、転んじゃった。ごめんなさいね」

 まったく謝っている口調ではない。顔を上げると掴まれていた腕が放される。

「よかったわ。早く帰ってきてくれて」

「泰章さんと一緒だったら、満足に話もさせてもらえないでしょうに」

 聞き覚えはあるが、できれば聞きたくなかった声。そして、泰章なしでは会いたくなかった人物――叔母姉妹が、腕を組んで史織の前に立ちはだかる。

 彼女たちも呼ばれたのだろうか。義母が来るのは教えられていたが、彼女たちも一緒だとは聞いていない。

「今日は……なんのご用ですか? 泰章さんに呼ばれたんですか……?」

 警戒しながら言葉を出し、ゆっくりと立ち上がる。姉妹は同じように斜め上を向いてコロコロ笑った。

「まあ、偉そうねぇ。泰章さんが呼んでくれるわけがないじゃない。あなたのせいで見限られそうになっているのに」

「ホントいい迷惑。害虫女の娘はどこまでも害虫でしかないわね。薫ちゃんを見習いなさいよ」

「そうそう、薫ちゃんはいい子よ~。聞けばあなたのことなんでも教えてくれるもの。帰ってくる時間とか働いている店とか」

「店……」

 史織は微かに眉を寄せる。初めて烏丸家に来た時、このふたりがいた。だいたいの帰宅時間は家の者しか知らないだろう。

 働いている店だって、史織に会う時は泰章の許可を取ってからとまで言われているのなら、彼が軽々しく教えるはずもない。

 薫がふたりに教えていたのだ。史織をよく思っていない叔母姉妹が知れば、なにが起こるかぐらいはわかったのではないか。

 ……そこまで、薫に嫌われているのだ。
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