内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 このオフィスの始業時間の三十分前には片付けまで済ませたいので、あまり余裕はない。
 早速ビニールシートを床に敷く。

 針金が緩んでいないか細かくチェックをしなきゃいけない。枝が倒れて誰かが怪我なんてしたら大変だから、油断できないのだ。

 ついでに枝を振り、枯れそうな花を落としてしまう。

 脚立を使って作業をしていると、梅の爽やかな香りに包まれてくる。
 最初は蕾だった紅梅も白梅も、いい感じに花をつけていて、今がちょうど見頃だ。

 最後に水を入れて替えて、大まかな作業を済ませると「やっぱり花はいいねー」と声がした。

 しみじみとした声の主は警備員のおじさんだった。

「あ、おはようございます」

 すっかり顔見知りのおじさんは「ご苦労様」と相好を崩す。

「ここに梅があるとうれしくなるよ。先月のロウバイもいい香りだったしね」

「ありがとうございます。そう言っていただけるとお花も喜びますよ」

「そうかい? じゃあ毎日褒めておこう」

「ふふ。お願いします」

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