やわく、制服で隠して。
卒業アルバムの表紙には、二〇〇一年度 卒業生と金色で刻印されているけれど、深春が机の上に置いた日記帳にはマジックで2000年と書かれている。

もう一冊は2001年。
卒業する前の十八歳、高校三年生頃までと、卒業した後の、大学生からの日記帳だろう。

ノートは二つとも同じ物で、国語辞典の三分の一くらいの厚さ。
表紙はクラフトのソフトカバーで、シンプルな物だ。
ノートのページの上側が、日焼けしたのか、生成っぽい色になっている。

パラパラとめくってみた。
一ページごとにびっしり書いている日もあれば、二、三行で終わっていたり、その日の気分を現すように書き殴りのページもある。

空白のまま、飛ばされて、適当なページからまた日記が始まっていたりもするし、映画の半券や、どこかのお店のフライヤーが貼られていたりもした。

ザッとめくり終わって、また一ページ目に戻る。

“四月十日。三年生の始業式。
二年前の入学式の日、入学生代表挨拶をしていた女の子と同じクラスになった。

やっとだ。一年も二年も違うクラスだったから、やっと同じクラスになれて嬉しい。

この記念の日まで、誰にも内緒で、自分の気持ちにでさえ嘘をついてきたけれど、もしもこの日が来たら、日記を書き始めようと決めていた。

私とあの子。
浅倉 冬子との大切な、高校最後の一年間の記録だ。”

「あさくら、ふゆこ。」

深春が呟いた。
私は黙って頷いた。

「ママの名前。浅倉は旧姓。私の名前もママに似せてつけられたの。」

ああ、そうだ。
深春の名前を初めて聞いた時、私の名前に似ていると思ったけれど、ママの名前も同時に思い出していた。

似た名前を付けたのも偶然?
いや、きっと意味があって付けられた名前なのだろうと思った。

何日も何日も、日記のページはママのことを綴る文字で埋め尽くされていた。
「ママとのこと」じゃなくて、「ママのこと」ばかり。

文字だけでも十分に、その想いは一方通行だと気が付いた。
それと同じくらいに綴られている「棗くんとのこと」。

棗くん、つまり深春のお父さんは高校生の頃から、深春のお母さんのことが気に入ってみたいだ。
けれどおばさんはママに夢中だった。
どんなにそっけない態度を取られても、まともに会話すらしてもらえなくても、おばさんはママに一途だった。

“七月十八日。
あとちょっとで夏休みだねって冬子ちゃんに話しかけたら、そうだねって返事をしてくれた。

夏休み、一緒に遊びに行こうよって誘ったら、そんなに仲良くないじゃんって言われた。やっぱりそうよね。まだ同じクラスになってたった三ヶ月だもん。
でも一日でもいいから冬子ちゃんと遊びに行きたい。それでもっと距離を近付けたいよ。

神様、どうかお願いします。”

深春が私に視線を向ける。私は頷き返す。全部読んだよって合図だ。
そして深春がページをめくる。
この行為が何度も繰り返された。
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