やわく、制服で隠して。
「示談にするつもりはありません。なのでこちらも受け取りません。」
「ですがこれは、こちらの謝罪の意です。どうか…!」
「これを受け取った時点であなた方は示談に出来たと思い込むでしょう?そうなることによって、あなた方の中ではこの誓約書の効果も薄れるでしょう。そうはさせませんよ。あなた方ご家族はこの罪からは逃れられない。たとえそれが息子さんが犯した罪であっても。家族で背負ってください。わたくし達も娘の傷を、家族で背負っていきますので。」
今までずっと黙って聞いていたママが、こっちを見た。
ママの目は、罪を犯した彼よりも私を見ていて、まるで私を責めているような、暗く冷たい目だった。
「分かり…ました…。」
「こちらからは以上です。」
「はい…。息子にはあのマンションからの退去命令が出ております。」
「そうでしょうね。」
「期日は六ヶ月間ですが、来週、再来週までには荷物をまとめて退去致します。わたくし達の住まい…この子の実家はここから遠い地方です。この町には二度と近付けさせません。お約束致します。」
「一人の成人男性の行動を、親が本当に制限できるかは定かではありませんが。今は信じるしかないでしょうね。」
彼とお母さんが立ち上がって、もう一度深く頭を下げた。
最初の謝罪と、警察と聞いた時に漏れた声以外、彼は何も言わなかったけれど、そんなことはどうでもいい。
早く目の前から消えて欲しかった。
パパが立ち上がって、二人を玄関へと促した。
お母さんがソファに座るママにも頭を下げて、リビングを出た。
彼が振り返って、私に「お前こそ二度と関わってくんなよ。」と、意味の分からない捨て台詞を吐いた。
憎しみと悔しさに満ちた目。
あぁ、逆恨みってこういうことなんだって思った。
ママがソファから立ち上がらないまま、彼に「あの動画と誓約書のこと、忘れないでね。」と低い声で言った。
彼は慌てて私から目を逸らして、さっさと玄関へと出ていった。
私もママも、玄関へは行かなかった。
卒業を一年後に控えた二十一歳の春過ぎ。
彼は大学を退学して、地方にある実家へと戻った。
彼の行動を、これからの私の未来を、私は信じて生きていける自信は無い。
まだ首に残る感触。消えていない青黒い痕。
これから何度もあの男のことを思い出しては怯えて暮らしていくんだ。
ママのあの冷たい目は、私への戒めだ。
罪を犯したのはあの男だけでは無い。
そう言われているみたいだった。
「ですがこれは、こちらの謝罪の意です。どうか…!」
「これを受け取った時点であなた方は示談に出来たと思い込むでしょう?そうなることによって、あなた方の中ではこの誓約書の効果も薄れるでしょう。そうはさせませんよ。あなた方ご家族はこの罪からは逃れられない。たとえそれが息子さんが犯した罪であっても。家族で背負ってください。わたくし達も娘の傷を、家族で背負っていきますので。」
今までずっと黙って聞いていたママが、こっちを見た。
ママの目は、罪を犯した彼よりも私を見ていて、まるで私を責めているような、暗く冷たい目だった。
「分かり…ました…。」
「こちらからは以上です。」
「はい…。息子にはあのマンションからの退去命令が出ております。」
「そうでしょうね。」
「期日は六ヶ月間ですが、来週、再来週までには荷物をまとめて退去致します。わたくし達の住まい…この子の実家はここから遠い地方です。この町には二度と近付けさせません。お約束致します。」
「一人の成人男性の行動を、親が本当に制限できるかは定かではありませんが。今は信じるしかないでしょうね。」
彼とお母さんが立ち上がって、もう一度深く頭を下げた。
最初の謝罪と、警察と聞いた時に漏れた声以外、彼は何も言わなかったけれど、そんなことはどうでもいい。
早く目の前から消えて欲しかった。
パパが立ち上がって、二人を玄関へと促した。
お母さんがソファに座るママにも頭を下げて、リビングを出た。
彼が振り返って、私に「お前こそ二度と関わってくんなよ。」と、意味の分からない捨て台詞を吐いた。
憎しみと悔しさに満ちた目。
あぁ、逆恨みってこういうことなんだって思った。
ママがソファから立ち上がらないまま、彼に「あの動画と誓約書のこと、忘れないでね。」と低い声で言った。
彼は慌てて私から目を逸らして、さっさと玄関へと出ていった。
私もママも、玄関へは行かなかった。
卒業を一年後に控えた二十一歳の春過ぎ。
彼は大学を退学して、地方にある実家へと戻った。
彼の行動を、これからの私の未来を、私は信じて生きていける自信は無い。
まだ首に残る感触。消えていない青黒い痕。
これから何度もあの男のことを思い出しては怯えて暮らしていくんだ。
ママのあの冷たい目は、私への戒めだ。
罪を犯したのはあの男だけでは無い。
そう言われているみたいだった。