離婚前夜に身ごもったら、御曹司の過保護な溺愛に捕まりました
 そうまでして本心を隠したがる理由も、左目の下にある小さい傷の理由も知らないまま、私は彼の妻からただの朝日奈咲良へ戻る。

「どうせなら最後に思い出でも作っておけばよかったね」

 聞けば彼は答えてくれたのかもしれないが、もうそのチャンスを逃してしまった。

 悪あがきだとわかっていながらも空のグラスを見つめて呟く。

「今からでも作ろうか?」

「え?」

 顔を上げると智秋が私を見つめていた。初めて見た眼差しはやけに熱を帯びている。

 不意に手を握られて心臓が大きく跳ねた。

 智秋は私の手を握り、自身の頬に寄せると手のひらに唇を押し当てる。

「夫婦でいるのは今夜だけだよ、咲良」

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