カクレンボ
 でも二人が傘を忘れることは想定してなかったから傘は一本しかない。桜も手に持っているのは一本だけ。空の頭のネジが抜けてるのも一本であってほしい。

「どうすんのよ、走る?」
 
「桜、持っとる傘は一本か?華も」

「見てわかるとおりよ」

 空は何かを決心したかのように拳を強く握っている。

「お前らは華奢だから、1本に2人入るだ
ろ、俺が入ったら、誰と一緒でもどっちか出る。だから俺は走って帰る!」

「ちょっと!」

 わたしたちの返事も待たず、空は雨の中を走り抜けていく。誰よりも早く駆け抜けていく。周りがみんな歩いているからだろうか、とても早く見える。

「どうする?空行っちゃったけど」

「桜の傘、雪に貸したらいいんじゃない?」

「なんでうちなのよ」 

「だって桜のほうが大きいから。雪も大きい方が…」

「いや、華の傘でいいよ。僕もそんなに体が大きいわけじゃないし、二人で傘でいいよさすなら大きい方がいいでしょ?」

 わたしの言葉はぱっちりと遮られてしまった。でも考えてみれば確かに雪の案のほうが正しいかもしれない。なんで気づかなかったんだろ…?

「どうするも何も、帰るしかないでしょ」
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