カクレンボ


「それで?帰るときに水たまりに転けて風邪を引いたと?」
 
 クリスマスイブ。予定通りわたしの家にみんな集まったのだけれど、来たときから空の様子がおかしかった。ふらふらしてるしなんだかだるそうだったし、いつもの空でないことは観察力のないわたしでもすぐにわかった。 

「はい、じょのどおりでごじゃいまず」
 
 鼻をすすりながら空は言うけれど、鼻声過ぎて別人のようだ。そんな空を見て雪は心配そうに空の隣から見ている。

 桜はあざ笑うかのように腕を組み文字通り見下している。

「買い出しってまだなのよね?」

「一直線にきたから、僕は何も買ってない」

「わたしも何買えばいいかわからなかったから何も買ってない」

「そうね〜、わかった。うちがこいつといるから、二人で行ってきて!」

 桜がぽんと手をたたいて言う。桜が自分から空とふたりきりになるなんて珍しい。

 桜ももしかしたら風邪を引いてるのかもしれない。 

「わかった。じゃあ行こ、華」

「あ、うん」

 既に席を立ち、雪はわたしとすれ違いざまにそう言った。

「ちょっとまってくれふたりとも、こ、殺されるー!」

 空の悲痛な叫びが聞こえたけれど、あの二人の中では日常茶飯事なのでもう今さら気にしない。

 外は思った以上に寒くて、マフラーと手袋をしてもなお、体の芯から冷えてくる。

「さむいねー。また雪降りそうだし 」

 雪もマフラーと手袋をしていて、コートも来ている。見たことのないコートだ。

「コート買ったの?」

「うん。寒かったから先週買ってきた。似合ってる?」

 ふわっと両手を広げて雪が一回転した。

 わたしは自然と笑みがこぼれながら首を縦に振った。
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