カクレンボ

「あとなにかあるかな」

 脇道に入ると人口密度は激減し、ようやく一呼吸つけた。ここから見てもよくこれを歩いてこれたなと思うほど人がたくさんいた。

 そんなに長い距離を移動したわけでもないのに息が上がる程疲れた。雪も疲れてるのか、商品棚に手をついている。

「いつも何食べてたっけ」

 わたしは物寂しいかごを見つめてぼそっとつぶやいた。なにか足りないのは分かる。何が足りないんだろう。

『あ!シャンメリーだ!』

 わたしは同じ言葉が同じタイミングで聞こえてびっくりした。

「同じこと言ってる」

 雪が笑いながら言う。つられてわたしも笑ってしまった。お互いを指した指が交点で交わってそのシンクロにもまた笑った。

 いつもシャンメリーを飲みながらチキンを食べていたのをすっかり忘れていた。半分くらいは空が飲んでしまうけれど。

「あとクラッカーだ」

「あ、ほんとだ」

 何だか今年は買い忘れが多い気がする。いま気づけてよかった。

 なんだか、楽しい。こんな時間ずっと続けばいいのに。それなのになんで神様は悪戯を仕掛けて来るのだろう。
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