カクレンボ
「ケーキ重くない?」
「うん、大丈夫」
スーパーの人混みを抜け出したあと、ケーキ屋で雪があらかじめ予約していたケーキを買った。ワンホールのケーキを持つわたしを気遣ってくれた。雪もスーパーで買った袋を持っているのに。
「あ、雪」
「ん?どうしたの?」
「あ、ゆきじゃなくて、雪」
「え?あ、ほんとだ」
手の平を空に向けて雲を見上げてみれば白い斑点が空からゆらゆらと舞い落ちてきた。
雪が振り向いてきたのも納得できた。この地域ではあまり雪が降らないから、それ自体がとても珍しいこと。
「何気にこの間違い初めてだよね」
「そう?なんかしてそうだけど…してないのかな」
雪が覚えてないのならきっとそうなのだろう。言われてみれば確かに雪がそれで振り返って来るのはなかった気がする。
「久しぶりに雪降ったね」
音も立てずにしとしとと雪が降っている。わたしは雪にまぎれて消えてしまいそうな声でそうつぶやいた。
雪も久しぶりに雪を見たからか、子供のような目をして空を見上げている。知らぬ間に視線が移り、いつでも見れるものをもう見ることのできない尊いもののように見入ってしまっている。