カクレンボ
 部屋のチャイムを鳴らすと『あいてるよー』とかすかに雪の声が聞こえた。 
 
 扉をあけて顔だけ覗きこむと何かを焼いている音が耳に止まる。

「どしたの?入っておいでよ」

 扉の音に気付いたのだろう、キッチンから顔を出してきた雪にそう言われた。

「同じ格好してる」

 雪がわたしを見て笑っている。確かに今のわたしたちは似たような、いや同じ格好をしている。扉から顔だけを出している。

 雪の笑顔につられて、わたしも笑ってしまった。

 わたしたちのマンションの部屋の中で一番大きな部屋についた。リビング、ダイニング、キッチンのあるこの部屋だ。

「ふたりは?」
  
 見渡す限りでは桜と空の姿はない。

 隠れるなんてことはしないだろう。いきなりわたしが鬼のかくれんぼを始められても困るし。

「買い物行ってるよ」

「あー、そうなんだ」

 まあ、あのふたりのことだから飲み物とかお菓子でも買っているのだろう。

「多分もうすぐ帰ってくるとおもう」

 今日のご飯はなんなんだろう。普段から料理を全くしないわたしだ。だから料理知識は皆無だ。

 カウンターからキッチンを覗き見しているけれど雪が何を作っているのかわからない。包丁で具材をきっている。フライパンで何かを焼き放置している。ということしかわからない。
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