カクレンボ
「あんな不器用なこいつができるんだからよっぽどよね」
 空くんは自慢げに腕を組んだ。それに対して雪くんは謙虚に、どこか恥ずかしさと嬉しさを交えているようだった。
「いいなあ料理男子。モテるわよ〜」
「お前彼女いたことないんだっけ」
「今まで?ないよ」
「だよな。いたら言うよな。まず人に興味持たないもんな」
「でも雪くん友達はいるでしょ?」
「ボッチって思われてる…」
「違う違う!」 
「雪可愛そうだぞ〜。雪にだって友達たくさんいるもんな?」
 空くんが無理矢理雪くんを引き寄せる。
「何気に人よってくるもんね。知らない間にうちらより友達増えてるのよね。人見知りの癖に」
 桜ちゃんが不満気に頬杖を付く。彼女の言う通り、この四人の中では雪が一番の人見知りかつ一番おとなしい。次いで私だという自信がある。
「癖にって。まあ合ってるけど」
 雪が苦笑を浮かべていった。
「それはそうと。結局神社はいつものとこ行くってことでいい?」
「そっか。それ決めてなかった。僕はいいけど」
「わたしも」
「うちも」
「ん。じゃあ11時半くらいには出るから。寝るなよ」
「そう言って去年寝たのはどこの誰だっけ?」
「悪かったな。今年は寝ねえっつうの」
 私も気をつけないと。去年はギリギリまで勉強してたからいいけど、今年は何もする予定がない。気が抜けたらいつ寝るかわからないし、普段あんまり飲まないけどコーヒーとか飲むとかしたほうがいいかもしれない。
 そっか。去年は受験だったんだ。まだ一年仕方ってないんだ。なんだかものすごく前のように、懐かしく感じる。
「何気に美味かったな。何も違和感なかったし」
「美味しかったね」
「ねえ〜。ほんと空が作ったとは思えない」 
 小食の私にとっては十分すぎるほどの量だった蕎麦。遅れを取らないようにと意識的に急いで食べてたら、なんとかみんなと同じくらいの速さで食べれた。
「空料理素質あるんじゃない?」
「ちょっとフランス行って磨くわ」
「寝言は寝て言いなさい」
 お茶を一口のんだ桜ちゃんが空くんを咎める。まあ、これはほとんど雪くんのおかげって感じだったし、そう言われるのもしかたないよね。少し前に雪がくんに影響を受けてか、空くんひとりで料理してたときがあったけど、このそばほど美味しくなかった。悪く言うと不味かった。それは自分自身でも認めていたことだったらしく、その一度以来空くんは料理してこなかったらしい。
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