カクレンボ
「あれ?雪くんと桜ちゃんは?」
トイレに行って帰ってきた隙に、ダイニングから雪くんと桜ちゃんが消えていた。
「ああ、さっき飲物買いに行ったぞ。桜と」
「そっか」
私はコクリコクリと頷いてさっき座っていた席に座る。
「なんで変えたんだ?」
スマホ片手に操作しつつ、ちらりと目を向けて聞いてきた。
「ん?なにが?」
「呼び名。雪くんとか桜ちゃんとか。今まで呼び捨てだったのに」
空君の顔が上がり、スマホ操作が止まった。
「ああ、そのことね。桜ちゃんがやっぱり呼び捨て慣れないっていうから。私もなんか違和感あったし変えるにはちょうどいいかなって」
自分の手を恋人繋ぎのようにして机の上に置いた。
「桜が、あーそう。面白いな」
空くんがくすりと笑う。その手派再びスマホの操作へと戻った。
「なにが?」
「いや、ここまで来てそれ言うんだなって。確かになんか華違和感あるなとは思ってて、ついさっきそれが取れたからどういうことなんだ?ってちょっと探ってみてた」
スマホ操作が止まった。ひさしぶりに面と向かって顔を見た気がする。
「探ってみてたって。とてもそうは見えなかったけど…」
雪くんの自慢したり、フランス行くんだーって言ってたり、とてもじゃないけど考える余裕なんてなかったはず。
「そうか?俺ってポーカーフェイスうまいかもな」
はっはっはと声をだして空くんが笑った。
「あ、私もなにかいるって言えば良かった」
そうだ。私も寝そうなの忘れてた。でもひとりで行くのは面倒だし寂しい。追いかけようにも近所にはコンビニ、スーパー、自動販売機と三銃士揃っているから、会える確率も低い。
「連絡してみればいいのに」
「スマホ、置いて行ってる」
「あちゃー。これはもう耐えるしかないな。がんば!」
言葉でどうにかなればいいけどね…。そうは行かないんだよなあ。頼むから睡魔来ないでと願う他ない。
「な、なに…?」
空くんが2度見したあと、だんだんと顔との距離が近くなった。反射的に顔を引いて猫背が針金が通ったみたいに伸びた。
「お前、モテてないの?」
「どしたの急に」
いきなり何を言い出すかと思えば…。
「いや、ずっと一緒だから気づきにくいけど、おまえ可愛い顔してるな」
思わず「え…?」と声が漏れた。桜ちゃんにも昔の同じようなことを言われたことを思い出した。どこか二人のシルエットが被る。返す言葉が見つからず目が泳ぎ、脳内で必死に整理している。