カクレンボ
「はい華も。飲み物買ってきたよ」
雪くんがビニール袋からアルミペットボトルのホットカフェオレを取り出して渡してくれた。これはよく私が飲んでいるやつ。覚えててくれたんだ。じゃなくて。今はそこじゃなくて。
「あ、ありがと」
「どしたの?」
雪くんの話し声さえも遠くから聞こえてくるようだ。驚いているのか、混乱しているのか、どうなっているのか自分で理解できてない。
「いや、なんでもないよ。それより、ありがとう」
空くんの顔を見てみたけど、何事もなかったかのような立ち居振る舞い。そして目が合うと逃げるようにしてこの場から立ち去った。
逃げないでよ。そっちがこの混沌の感情を私に持ってきたのに。無責任だよ。そんな心の声が通じるわけもなく、私はふたりの顔を交互に見ることしかできなかった。唯一知らないらしい雪くんはそんな挙動の私を見て首を傾げていた。
「もうちょいで時間か。そろそろ準備しよっかな」
空くんが席を立った。出発時刻までもう30分と少し。雪くんが飲み物を買ってきてくれたおかげでなんとか眠くなることは避けられて、一安心。
私もそろそろ準備しないと。マフラーとか手袋とか、お賽銭するためのお金とか。カイロとか。でもそこまで時間はかからない。
「今年は受験ないから気が楽ね」
桜ちゃんが大きく伸びをした。
「出る直前桜ちゃんに教えてもらってた」
「懐かしいね〜。結構大変だったんだから〜」
今も昨日のように大変だったことを思い出す。あのとき教えてくれなかったら私は今この高校に多分いない。苦手なところは、みんなで補い合って来た。一人じゃ無理でも、みんなとなら、4人でいるなら、なんでもできるような気がした。
実際、今はみんなといる。なんでもできる領域で生きている。
「じゃ、そろそろ出ますか」
空くんは上着を羽織った。さくらちゃんはマフラーを。雪くんは手袋をはめた。私は、そのすべてを。
家を出ると、空は当然真っ暗。必ず晴れると言われている大晦日らしい天気。街の灯りは消えている。静かな夜。毎日この時間はこんな感じなのだろうけど、大晦日という名がつくだけでものすごく特別感がある。
明日は、もう来年なんだ…。当然の理が今年は当然じゃないみたいに感じる。
「やっほー!」
ロビーから出ると、どこかで聞き覚えのある桜ちゃんの声がした。
「近所迷惑だぞ」
「でも見てよ。周り誰もいないの。こんなこと中々ないじゃない」
言われてみればそうだけど…。
「桜はいつでも元気だね」
「おお?雪がそんなこと言うなんて」
「来年も、そうだといいね」
詰め寄る桜ちゃんに対して、冷たい一言。そんな雪くんの目は、どこを見てるのか。微睡みのそのまた奥でも見ているかのようだった。
雪くんがビニール袋からアルミペットボトルのホットカフェオレを取り出して渡してくれた。これはよく私が飲んでいるやつ。覚えててくれたんだ。じゃなくて。今はそこじゃなくて。
「あ、ありがと」
「どしたの?」
雪くんの話し声さえも遠くから聞こえてくるようだ。驚いているのか、混乱しているのか、どうなっているのか自分で理解できてない。
「いや、なんでもないよ。それより、ありがとう」
空くんの顔を見てみたけど、何事もなかったかのような立ち居振る舞い。そして目が合うと逃げるようにしてこの場から立ち去った。
逃げないでよ。そっちがこの混沌の感情を私に持ってきたのに。無責任だよ。そんな心の声が通じるわけもなく、私はふたりの顔を交互に見ることしかできなかった。唯一知らないらしい雪くんはそんな挙動の私を見て首を傾げていた。
「もうちょいで時間か。そろそろ準備しよっかな」
空くんが席を立った。出発時刻までもう30分と少し。雪くんが飲み物を買ってきてくれたおかげでなんとか眠くなることは避けられて、一安心。
私もそろそろ準備しないと。マフラーとか手袋とか、お賽銭するためのお金とか。カイロとか。でもそこまで時間はかからない。
「今年は受験ないから気が楽ね」
桜ちゃんが大きく伸びをした。
「出る直前桜ちゃんに教えてもらってた」
「懐かしいね〜。結構大変だったんだから〜」
今も昨日のように大変だったことを思い出す。あのとき教えてくれなかったら私は今この高校に多分いない。苦手なところは、みんなで補い合って来た。一人じゃ無理でも、みんなとなら、4人でいるなら、なんでもできるような気がした。
実際、今はみんなといる。なんでもできる領域で生きている。
「じゃ、そろそろ出ますか」
空くんは上着を羽織った。さくらちゃんはマフラーを。雪くんは手袋をはめた。私は、そのすべてを。
家を出ると、空は当然真っ暗。必ず晴れると言われている大晦日らしい天気。街の灯りは消えている。静かな夜。毎日この時間はこんな感じなのだろうけど、大晦日という名がつくだけでものすごく特別感がある。
明日は、もう来年なんだ…。当然の理が今年は当然じゃないみたいに感じる。
「やっほー!」
ロビーから出ると、どこかで聞き覚えのある桜ちゃんの声がした。
「近所迷惑だぞ」
「でも見てよ。周り誰もいないの。こんなこと中々ないじゃない」
言われてみればそうだけど…。
「桜はいつでも元気だね」
「おお?雪がそんなこと言うなんて」
「来年も、そうだといいね」
詰め寄る桜ちゃんに対して、冷たい一言。そんな雪くんの目は、どこを見てるのか。微睡みのそのまた奥でも見ているかのようだった。