カクレンボ
「ん?」
「もう年明けてる」
 腕時計に目をやる。暗くて見えないけれど街灯の光の近くに持っていくと見ることができた。
「嘘…」
「見てから言うなよ」
 ふっと空くんが笑った。
 みんなで迎えようと思ったのに…。私がはぐれたせいで。
「みんなのとこ行くぞ」
「空くん!」
「何だよ。大っきい声出して」
 聞くのなら、今しかない。多分今聞かなかったらしばらく聞く機会はない。その間は私のことだからモヤモヤするんだろう。容易に想像できる。
「さっき何いいかけたの?」
「さっき?」
 忘れてるのかな。それともすっとぼけてるだけなのか。あんな気になること言っておいて忘れるなんてことはあり得ないと思うから多分後者だろう。
「家にいるとき。告白って…」
 もし二人が今の関係が変わるとなると少し不安だ。それが、いい方向だとしても。
 桜ちゃんは空くんのことが好きって言ってた。もちろんそれは恋愛的な意味だろうけど。
「ああそのこと」
 空くんは後頭部をかいた。どうやら忘れていたという訳ではなかったらしい。
「桜からだったんだ。ついさっき、想いを告げられた。最初は冗談かと思ったけど、あいつあんな真剣な顔できたんだな」
 ふっと空くんは笑い、一呼吸置いて続ける。
「まだ返事には迷ってる。変わってしまっていいのかって。でも、振ったらそれはそれで…」
 なんて返せばいいか分からなかった。身勝手な事は言えないから、私は口を閉じたままだった。
「でも、振ろうと思う」
 一瞬、何が起こったのか分からなかった。少しして状況を理解した私は目を丸くした。
「な、なんで?」
 なんでだろう。私が振られた気分。
「空くんは桜ちゃんのこと好きじゃないの?」
「華。お前告白されたことがあるって、さっき言ってたな」
「言ったけど…。今は関係ないじゃん」
「あのときの華も、俺と同じ気持ちだったんじゃないのか」
 あのときの、私。男の子に告白されたときの、私の気持ち。
 どう思ってたんだろう。他人の心のようにわからない。逆に今の空くんはどんな気持ちなんだろう。あのときの私の気持ちが、空くんにはわかるってこと?私もわからないのに。
「華、怖かったんだろ」
 核心を疲れてしまったように心臓がドクンドクン跳ねる。 
「関係が変わるんじゃないかって。今までみたいに話せなくなるんじゃないかって」
「告白されたのは雪くんじゃないよ」
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