カクレンボ
「だからじゃないか?もし、他の男子と関係を持ったら今まで通り雪と、桜とか俺とかと話せなくなるかもって。向こうも幼なじみとか知ってても知らなくても、自分より仲良くされたら嫉妬するだろうし、そこを華は第一に考えたんじゃないか。俺は雪ほど華と仲良くないし、付き合いも長くないけど、他の誰よりも長いことは確かだ。それにこう見えて俺は観察が得意だから俺にはわかる。お前は自分のことより相手のことを一番に考える奴だ。まあそもそも初対面だったんだし好意を抱いていないっていうのも理由の一つだったんだろうけどそれと…。まあこれはいいや」
 空くんの眉間にしわが寄っている。私はその場に立ち尽くすことしかできなかった。まだはっきりとはしていないものの、過去の自分の心を知らされた感じがした。
「わかるんだよ。お前の気持ちが。だから余計に怖いんだ。変わるのが。友達じゃなくなるのが嫌なんだ」
 空くんの手はぐっと握られていた。
 まだ知らぬ恐怖を知りたくないが故の気持ちだろう。何が起こるかわからない未来を自らの手で曲げてしまうことがどれだけ怖いか。でもそれを常に選択しなくちゃいけないのが人生。正解か不正解かも知らず。それを知るのはあとになってからだというのについてくる後悔。それがどれだけ怖いか、不安か。さっきから考えてたんだろうな。
 空くんの考えも頷ける。私も関係が変わるのは嫌だ。でも同時にそれは仕方のないことだとも思う。
「私も、変わることは怖い。空くんの気持ちもよくわかるよ。でも、永遠なんてこの世界にない。先のことばかり見るからあるように錯覚してるってだけ。不確かな幻想を、人が勝手に永遠って呼ぶだけ。私もずっと続いてほしい。みんなでずっといたい。でも、いつか終わりが来ることも知ってる。それがいつかっていうのは誰もわからない。明日かもしれない。何十年って先かもしれない。あの時こうしてたらなんて、そのときにはわからないんだから、正解を選ぶんじゃなくて、選んだ方を正解にするようにいきていくべきなんじゃないかなって、私は思う。だから空くんがどっちを選んだとしても、皆で正解にしていけばいい。続く方の道へ進めばいいんだよ」
 私自身、こうは言っているものの、自分では全く自信がない。自分ではこんな覚悟できていないのに。無責任なことを言ってしまった。
 空くんの拳から力が抜けていくのが街灯から伸びた影で分かる。空くんはふっと笑った。
「結構長い付き合いでずっと一緒だったから中々気づけなかったけど、お前、いい奴だな!」
 空くんの顔に笑みが戻る。私はそれがただ嬉しかった。逆に今までいい奴って思ってもらえてなかったんだ…。
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