カクレンボ
 今は…9時。今日みんなで集まる日だったっけ。
 とりあえず、リビングに行ってみよう。雪くん誰と話してるんだろう。笑い声もする。
「あ、華おはよう」
 リビングに行くと、雪くんと…
「久しぶり」
 楓ちゃんが来ていた。
「楓ちゃん?なんでいるの?」
「雪に呼ばれた」
 そう言って雪くんとのメール画面を見せてきた。
「お正月に声かけてたんだ。今日なら行けるっていうから」
 ならそうと言ってくれたら良かったのに。
「ひまわり君は?」
「今日は無理らしい」
「桜と空も今日はだめらしいよ」
「そうなんだ」
 私は雪くんの向かいの席に座った。
「そういえば私なんで雪くんの家で寝てたの?」
 私は寝癖がついている髪をいじった。かなりはねている。後で直さないと。
「昨日夜ご飯食べたら寝ちゃってたから。3人で部屋まで運んだんだ」
 3人係で…。思い出した。昨日そういえば4人で鍋パーティしたんだっけ。
「昨日の記憶飛んじゃってるね。何話したか覚えてないでしょ」
「華、雪のこと言えない」
「僕?そんなに眠り深い?」
「昔すごかったよね。ホント起きないし、寝ぼけもひどかったもん。起こすの大変だったんだよ?」
「今朝の華みたいに?」
「そう」
 すかさず楓ちゃんが反応した。ボーイッシュな髪がうなずいたことで揺れた。
「私…そんなにひどかったんだ」
 今になって恥ずかしくなってきた。幼かったらまだしも、私達は既に高校生。いくら幼なじみとはいえ羞恥心が勝ってくる。
「雪、聞いた」
「何を?」
 楓ちゃんが雪くんに問う。
「夏祭りの屋台なくなった」
「え?」
 思わず声が出た。でも雪くんは動揺しているようには見えなかった。
「そうなんだ」
 冷静な回答に私は戸惑う。
「残念じゃないの?」
「正直自信なかったし、やらないつもりだったから」
 思わぬことを言ってきて思わず驚いた。
 屋台するんじゃなかったの?
 声に出せなかった。ちゃんと言わないといけないのに。
「その代わり文化祭には出していいらしい」
「雪くん、そっちは出すよね?」
「んー。どうかな。今の腕じゃ、誰も評価してくれないだろうし」
 机に目線を落とした雪くんは、無を見つめているように見えた。自信がないらしく、それでも私は残念だった。雪くんの料理で誰かが笑顔になるところを、無関係の私も見たかった。言わなきゃ…。声に出せない感情が心に溜まる。
「だから、自身がつくように練習しないとね」
 雪くんの目に光が戻った。私は嬉しくて、ただ笑っている雪くんの笑顔を見るのが嬉しくて、それと同時に何処か虚しいような悲しいような感情も芽生えた。
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