カクレンボ
 なんでかは調べないのね。雪君のホットケーキが他のと一味違うのはこれが理由なのかもしれない。
「これを入れたらあとはもう混ぜて焼くだけ」
「まだ混ぜるの?もう腕が…」
 私の腕は限界を迎えている。いつもより変なところに力が入ったせいで悲鳴を上げている。
「んー。そういうことなら手伝うよ」
 え?手伝うって…。雪くんは私が泡だて器を持つ手の上から泡だて器をもった。手の甲に体温を感じる。
 え…と心で声が出る。私の体温も上がり、緊張から少し手が汗ばむ。無性にドキリと鼓動が波を打ち、初めての感覚に私は襲われる。
 




 一通りホットケーキを作り終えた。私の体温はまだ下がらない。熱があるみたい。 
 見た目は上々。あとは味がよいかどうか…。
 お皿に2枚ずつ盛り付ける。焼いている途中で入れておいたココアを運ぶ。湯気が視界を曇らせる。そしてバターとシロップを運んだ。
「華が焼いた」
 思いの外いい出来だったらしく、楓ちゃんは私を疑った目で見てくる。
「疑わなくても…」
「だって初めてとは思えない」
「それは私も同じこと思ってるよ」
「上手。僕最初ここまでうまく焼けなかったのに」
 私の隣に腰掛けた雪くんは不思議そうにホットケーキとにらめっこする。
「華、すごいね」
 にらめっこの決着はついたのかわからない。雪くんはホットケーキから目線をあげて私の方を見た。
「あ、ありがとう」
 無性に嬉しくなる心。正直な体はそれに応えて頬を染める。
「照れてる」
「て、照れてない!」
 楓ちゃんにとがめられ、すぐに否定してしまう。ほんとは彼女の言う通りなんだけど。
 楓ちゃん、前から痛いところばかりついてくる…。変わってないのはいいことだけどこういうときに困る。
「でもホントに美味しいよ。華と一緒なら、文化祭の屋台出してもいいかも」
「え?私と?」
「うん」
「今回のはたまたまだよ。それに人に出すのは恥ずかしい…」
「大丈夫。まだ時間ある。華なら行けるよ」
 そんな他愛のない言葉がいつもより胸に刺さる。
『気付かされるから』
 桜ちゃんが言ってたのって、こういうことなのかな。今日はなんだかいつもと違って変。手を繫ぐような形になっても昔はなんにも思わなかったのに、あんなに緊張するなんて…今日はおかしかった。
 
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