カクレンボ
 あんなに大きかった弁当も、4人で食べると少なく感じてしまう。春の風が心地よくて、つい睡魔に襲われる。
「ちょっと歩いてくるよ」
「散歩?うちも行く」
 雪くんの声も遠くに聞こえる。瞼の裏に夢が浮かんでいく。



「ちょっと歩いてくるよ」
「散歩?うちも行く」
 眠気を飛ばすために歩こうと思いそういうと、桜もついてくると言った。華はもう寝ている。
「おう。気をつけろよ」
「あんたは来ないの?」
「流石にひとりで寝かせるわけには行かないだろ」
 ふたりの会話を片隅に、僕は靴を履いた。
「じゃあ行ってくる」
「あ、ちょっと待って」
 数歩歩いた所で桜に呼び止められる。振り返るとまだ桜は靴を履いている途中だった。
「お待たせぇ」
 桜が靴を履いて僕の横まで来た。そして少し歩いた。
 桜の道はきれいで、思わず見入ってしまう。舞っている桜が肩につく。それはまるで僕に寄り添ってくれているみたい。人気もあまりなくて、静かな空間の中に風の音と揺られる桜の木だけがある。
「雪、ちょっと話があるんだけど」
 僕の後ろにいる桜が背中をつまんで僕が歩くのを強制的に止められた。
「どしたの?」
「うち、空と付き合った」
 僕は桜の方へ振り向いた。
「そうなんだ」
「意外と驚かないんだね」
「いつか絶対そうなると思ってたから」  
 僕は気づいていた。ふたりがお互いを幼なじみとしても恋愛対象としても見ていることに。それを聞いた桜はとても驚いていた。
「だから、もう華に思い伝えていいよ」
 僕に向けられた眼差しは、芯があってとても頑丈なもののように見える。
「あのときはもう付き合ってたの?神社に行った日」
 

「ちょっと、華探してくる」
「待て。俺が行く。お前はここにいろ」
 いつの間にか華がはぐれていた。ずっと見ていたはずなのに。ちょっと目を離した隙にはぐれてしまった。慌てて僕が探しに行こうとすると空に止められ、僕の返事も待たずに空は走って暗闇へと走っていった。
「ちょっと移動しましょ」
 そう言った桜について歩くと、電柱の僅かな明かりに照らされたベンチへと案内された。
「雪、華のこと好きなんでしょ」
 いきなりそんな事を聞かれるものだからびっくり。
「なんでわかったの?」
 否定しても無駄だと思った。心に嘘はつけないのだから。
「隠してたつもりなのに」
「うちと空には分かるんだなあこれが」
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