カクレンボ
『雪、華のこと好きなんでしょ』

 頭の中を回る言葉。認めざるを得ない。心には嘘をつけない。実際僕の心臓は今ドクドクと大きく音を立てている。華が幼なじみであるにも関わらず。こうしておんぶすることなんて今まで、たくさんあったのに。そんな他愛のないことは、当たり前だと思ってた。ここの3人、特に華は兄弟のように慕ってきた。それなのに僕は今、彼女に一線を越えた感情を抱いている。行けないとは思わない。僕たちはどれだけ親しくしても他人で、異性同士。恋慕が芽生えるのも、無理はないのだから。

「…好き」

 言葉にしたかった。そうせざるを得なかった。どれだけ小さかろうと、どれだけこの気持ちがあろうと、最終的には伝わらなきゃ意味がない。この言葉がこの風に流されても、夕闇の静寂に消え去ろうとも、それでもいい。いつかちゃんと、言えたなら。
「…ゆき君?」

「起きた?」

「あ…そっか私」

「そうだよ。お昼寝したっきり」

 聞かれてない…よね。はぁ…びっくりした。
「降りる?」

「うん。…あ、でも靴…」

「あ、桜が持ってる」

 でもその桜はもう遥か先。人を背負って歩く人を、おいていったのかあの2人…。

「いいよ。このまま行こ。華も疲れたでしょ」
「重くない?」

「昔よりはだいぶ重たくなったよ」
「私太った?」

「もし華で太ってるなら全人類太ってることになる」

 華の体は本当に華奢。今にでも折れてしまいそうなほど細い。そんな華を重いと感じるのは、成長と僕の力不足。

 家につくと、何故か僕の部屋の前に華の靴が置いてあった。

「なんで僕の部屋の前に」

「ねえゆきくん?」

「ん?あ、しゃがむね」

「靴、とらなくていいよ」

「ええ?運んでけないよ。もう僕も疲れたし」

「隣なのに」

「うん。隣なのに」

 思わずに笑ってしまった。

「あ…」

 しゃがんだはいいものの、長い距離歩いた疲れと、人を背負って歩いた疲れとが足されて立てなくなった。

「ん?どうしたの?」

「立てない」

「…へ?」

 どうしよ。僕は壁に両手をつくわけには行かないし、華も華で地面に降ろさせるわけには行かないし…。

「靴とれる?」

「んー…ちょっと無理そう」

 視界をずらして華の指先と靴が届くかを見ていたが、ほんの数センチ足りないよう。

「わかった。鍵渡すから、開けて」

 必死の思いで腕を伸ばす。

「もった?離すよ?」

「持った!いいよ離して」
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