カクレンボ
「開けたよ」
 華が扉を開けて、とりあえず玄関にさえ足をつけさせればいいから。僕は体を回転させて玄関に背を向ける。
「降りれる?」 
「うん」 
 目だけを向けたその視界の端で華がゆっくりと足をついていくのが見えた。それを確認した僕は体を起こした。
「ふう、なんだか目線が低いね」
 とりあえず僕も家に入って扉を閉める。
「雪の目線って、あんな感じなんだね」
「華、ご飯食べていく?」



「華、ご飯食べていく?」
 てっきり、もう帰されるだと思っていた。家に入れてもらって嬉しかったけど夜も老けてきたから、もう帰らされるのかと、てっきり思っていた。
「いいの?」
「うん。このまえカレー作ったんだけど余ったから。味噌汁くらいなら作れるし、僕も1人は寂しいから」
「食べる」
 私はそのまま家主の気持ちで雪くん家のリビングにズカズカと上がる。
 左右対称とはいえ作りは同じ部屋。そして私が一番多くここに来てる。もう家同然。



「華。起きて」
 揺さぶられる体。段々と意識がはっきりしてきた。
「んー…」 
 自分の腕に、顔がうずくまっていた。まだ視界がぼんやりとしている。
「え?…私寝てた?」
「うん。ご飯食べてからぐっすりだったよ。」
 ぐっすり…。また私寝てたんだ…。ってあれ?
 ふとなにかがかけられている感触がしたので見てみると、毛布がかけられていた。通りで気持ちよく寝られた訳だ。
「もうこんな時間」
 時計はもう10時を指している。
「寝起きの華は危険だから送ってく」
 危険って…。そして介護されるように肩を持たれて私の家までパジャマの雪はついてきた。そんなにしなくても私は平気なのに。
「寝起きの華は何するかわからないから寝るまでついとくね」
「私そんなに危ないと思われてるの?」
「だって前…。寝起きの華壁に頭ぶつけてたし、寝ぼけの華は意味分かんないこと言うし、とにかく何するかわからなくて危ないから」
「うそ…」
「ホント。今度動画撮ってあげる」
 お願いしますとは言えないけれど、そこまで危ないなら逆に見てみたいなんて好奇心が湧いて来て首を横に振るまでは至らなかった。
 私が着替えている間に、雪君はキッチンのポットに湯を入れている音がしたから、多分ココアでも入れているんだろう。
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