ゆびきりげんまん
「そう。私、沙羅を見損なったよ」


 ともちゃんは呆れたように微かに笑った。
 
 そして挑むように私を見た。


「じゃあ、私、もう応援するの辞めるね。沙羅は親友だし、王子がもし沙羅のこと好きで二人が幸せになるならそれがいいと思ってたけど」

「とも、ちゃん?」


 私は急に不安になる。


「私の好きな人って本当は王子なんだわ。でも沙羅にはもう関係ないよね。私、もう遠慮しないから」

「と、ともちゃん……」


 私は驚きを隠せない。
 
 そんな、そんなことって。



「私は自分が傷付くことなんか恐れない。私は王子が好き。それだけでいいと思ってるから」
 

 ともちゃんは真剣な顔で言った。

 私は、私は。

 ともちゃんみたいにただ好きなだけでいいと思えるだろうか。

 思えないから、葵君を諦めたのだろうか。

 そして。

 ともちゃんは今までどんな思いで、私と葵君の話を聞いてきたのだろう。どんな思いで私の応援をしてくれていたのだろう。

 いつもすぐに王子の姿を見つけていたともちゃん。好きだったからなんだ。

 ともちゃん……!


「ともちゃん……。私、今まで気づかなかくて、ごめん……」

「そんなこと、別にどうでもいいよ。私たちは親友だけど、これからは王子に関しては私はしたいようにするから。沙羅は王子諦めたのなら、私を応援してくれるんだよね?」


 ともちゃんは意地悪く言った。

 私は頭がくらくらするのを感じた。

 ともちゃんが葵君を好きだったという事実。それだけでも十分衝撃的だったけれど。

 それ以上に、ともちゃんが葵君にどれだけ本気かを見せつけられた気がした。

 私は。私の葵君への想いは。軽いものなんかじゃなかった。

 でも脳裏をかすめるのはスケートをする葵君。誰よりも輝きを放つ葵君。

 やっぱり私には届かない。いくら想っても。

 私はゆっくり目を閉じて、そして開いた。


「……うん。応援するよ」


 私の言葉にともちゃんは一瞬戸惑うような顔を見せたが、すぐに笑顔を作った。


「そ。ありがとう」
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