ゆびきりげんまん
私は五限に少し遅刻して、先生に小言を言われてしまったけれど、頭は葵君との約束でいっぱいだった。
リンクに行くんだ。
五限の終わるチャイムが鳴ると、ともちゃんが私の席に来た。泣きそうな顔をしていた。
「沙羅、ごめん。本当にごめん! それで……王子には会えた?」
「うん。会えたから大丈夫だよ! 気にしないで」
ともちゃんは神妙な顔で私を見た。
「私、いつかはこんな日が来るとわかってたんだ。でも、いざ直面するとちゃんと受け入れられない自分がいて……先延ばししても結果は一緒なのにね。なんか、自分の気持ちが整理できなくて。嫉妬でいっぱいになっちゃって。それで、沙羅に葵君から伝えてって言われたの、言えなくて。本当に最悪だ」
「ともちゃん? 大丈夫? 私、怒ってないよ? こんな日って何?」
私はともちゃんの言葉の意味が分からなくて訊ねる。
「王子から告白、されたんでしょ?」
「え?」
私は驚いて筆箱を落としてしまった。ともちゃんはまた泣きそうな顔になった。
「とぼけるの? それとも私に気を使ってるの? そういうの、いらないよ!」
ともちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣きそうな声で言った。
私は慌ててともちゃんの手を握る。安心させるように。
「ま、待って、ともちゃん! 私に葵君が告白するわけないじゃん! ともちゃんの早とちりだよ!」
「は? 呼び出しっていったら、告白じゃないの?」
困惑したともちゃんの顔。たぶん私も同じような顔をしているはず。
「違うよ? リンクに来て欲しいって言われたの。今シーズンのプログラムを見て欲しいって」
ともちゃんは面食らったような顔を一瞬して、そして、悟ったような顔つきになった。
私は訳が分からなかった。
「ともちゃん?」
「そっか、王子からそう言われたんだね」
「うん」
「それで、行くんだよね? 沙羅は」
ともちゃんの目が私を捕らえる。全てを受け入れたような、澄んだ目だった。
「うん、行くよ。行ってくる。……ともちゃん?」
私の返事に、ともちゃんは笑った。それはなんだか諦めたような寂しいような笑顔だった。
「そう、そうだよね。うん。……うん。しっかり見てくるんだよ?」
「うん。私、もう逃げない。……ともちゃんは大丈夫? なんだか笑ってるのに泣いてるみたい」
「それは、私も王子を好きだったからね。でも、うん。さっき言ったように、わかってたことだから。王子の気持ちは王子のものだもんね」
よくわからない。なんでともちゃんがこんな顔をするのか。
「ともちゃん? ともちゃんも一緒に見に行きたいの?」
はあ、とともちゃんは息を吐いた。
「沙羅、怒るよ? 王子は沙羅に見に来てほしいって言ったんでしょ?」
「うん。でも……」
「王子の気持ちも考えてあげなよ。あ、六限のチャイム。私、席に戻るね」
葵君の気持ち……?
葵君はどうして呼び出してまで私をリンクに誘ったんだろう。
ともちゃんの言っている意味もよくわからない。
何か深い意味があるのかな。
そう思うとリンクに行くのが少し恐くなる。
でも、考えても仕方ない。私は葵君の演技を見るって決めたんだから。
弱い私と向き合うって決めたんだから。
リンクに行くんだ。
五限の終わるチャイムが鳴ると、ともちゃんが私の席に来た。泣きそうな顔をしていた。
「沙羅、ごめん。本当にごめん! それで……王子には会えた?」
「うん。会えたから大丈夫だよ! 気にしないで」
ともちゃんは神妙な顔で私を見た。
「私、いつかはこんな日が来るとわかってたんだ。でも、いざ直面するとちゃんと受け入れられない自分がいて……先延ばししても結果は一緒なのにね。なんか、自分の気持ちが整理できなくて。嫉妬でいっぱいになっちゃって。それで、沙羅に葵君から伝えてって言われたの、言えなくて。本当に最悪だ」
「ともちゃん? 大丈夫? 私、怒ってないよ? こんな日って何?」
私はともちゃんの言葉の意味が分からなくて訊ねる。
「王子から告白、されたんでしょ?」
「え?」
私は驚いて筆箱を落としてしまった。ともちゃんはまた泣きそうな顔になった。
「とぼけるの? それとも私に気を使ってるの? そういうの、いらないよ!」
ともちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣きそうな声で言った。
私は慌ててともちゃんの手を握る。安心させるように。
「ま、待って、ともちゃん! 私に葵君が告白するわけないじゃん! ともちゃんの早とちりだよ!」
「は? 呼び出しっていったら、告白じゃないの?」
困惑したともちゃんの顔。たぶん私も同じような顔をしているはず。
「違うよ? リンクに来て欲しいって言われたの。今シーズンのプログラムを見て欲しいって」
ともちゃんは面食らったような顔を一瞬して、そして、悟ったような顔つきになった。
私は訳が分からなかった。
「ともちゃん?」
「そっか、王子からそう言われたんだね」
「うん」
「それで、行くんだよね? 沙羅は」
ともちゃんの目が私を捕らえる。全てを受け入れたような、澄んだ目だった。
「うん、行くよ。行ってくる。……ともちゃん?」
私の返事に、ともちゃんは笑った。それはなんだか諦めたような寂しいような笑顔だった。
「そう、そうだよね。うん。……うん。しっかり見てくるんだよ?」
「うん。私、もう逃げない。……ともちゃんは大丈夫? なんだか笑ってるのに泣いてるみたい」
「それは、私も王子を好きだったからね。でも、うん。さっき言ったように、わかってたことだから。王子の気持ちは王子のものだもんね」
よくわからない。なんでともちゃんがこんな顔をするのか。
「ともちゃん? ともちゃんも一緒に見に行きたいの?」
はあ、とともちゃんは息を吐いた。
「沙羅、怒るよ? 王子は沙羅に見に来てほしいって言ったんでしょ?」
「うん。でも……」
「王子の気持ちも考えてあげなよ。あ、六限のチャイム。私、席に戻るね」
葵君の気持ち……?
葵君はどうして呼び出してまで私をリンクに誘ったんだろう。
ともちゃんの言っている意味もよくわからない。
何か深い意味があるのかな。
そう思うとリンクに行くのが少し恐くなる。
でも、考えても仕方ない。私は葵君の演技を見るって決めたんだから。
弱い私と向き合うって決めたんだから。