彼は私を偏愛している
そう━━━━━
ただの子どもの口約束。

吹けば飛んでしまうような、軽い約束………


10年前、雛菜の両親が亡くなった。
親戚に引き取られた雛菜。

でも悲しみはなかなか拭えず、15歳年上の亜舟が支えになっていた。

亜舟と雛菜の両親が友人だったのもあり、雛菜は亜舟を本当の兄のように慕っていた。


当時25歳の亜舟。
仕事にも慣れ、これからは次期社長としての忙しい毎日になるからと、雛菜に“しばらく会えない”と話していた矢先の事故だった。


「亜舟くん、お願い!月に一度でも構わないから会いたい!伯父さんも伯母さんもとてもよくしてくれるけど、やっぱり亜舟くんに会いたい!
ワガママ言ってるってわかってるけど、お願い!」

「ヒナ、ごめんね。
もちろんできる限り、時間は作る。
でも、約束はできない」

「………亜舟くんの、バカ!!
もういい!!早く、どっか行っちゃえ!!」

「ごめんね……」
悲しそうに顔を歪める、亜舟。

「ごめん…なさい…」
「ヒナ?」
「違うの!こんなことが言いたいんじゃなくて……」
「うん、わかってるよ?
ヒナは、とっても優しい子だもん!
悲しくてつい、言っちゃったんだもんね!」

「…………亜舟くん」

「ん?」
「私、頑張るから……」
「うん」

「私が、成人したら……」

「うん」


「私を亜舟くんの、お嫁さんにして!」


「え………」
亜舟を見据える、雛菜。


「…………なーんてね!嘘だよ!」
フッと、笑って言う雛菜。

「いいよ」

「え?」

「約束!」
亜舟が小指を差し出す。
「いいの?」

「うん!約束!」

雛菜は亜舟の長い小指に、自分の小さな小指を絡めた。


まさか、本気だなんて思っていなかったのだ。

雛菜を元気づける為の優しい嘘………




「ヒナ、僕はね。
守れない約束なんてしないよ。
僕は“最初から”ヒナをお嫁さんにする為に頑張ってきた。
ヒナは僕が本気で愛する、最初で最後の……たった一人の女性なんだよ!」

「うん、ありがとう!
私も、亜舟くんに相応しいお嫁さんになる!」





この時はまだ、雛菜は全く想像もしてなかった。




“阿久津 亜舟”という人間が、歪んだ愛の持ち主だったことを━━━━━━





雛菜は“最初から”亜舟の手の上で転がされていたのだ。





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