一途な淫魔の執着愛〜俺はお前しか一生抱かない〜
「なーにイチャイチャしてんの? ムカつくよ?」
「悠夜……だっけ? 俺は何も知らなかった、何も知らない俺に本当のことを教えてくれないか?」


 日和を自分の後ろに隠し、しっかりと腰を抱き寄せる。自分から少しも離さないように。離れないように。


「……気安く名前で呼ぶなよ」
「でもそれがお前の名前なんだろ?」


 洸夜と悠夜、似たようなニュアンスだ。母親がそう名付けてくれたのだろうか。正直もう顔も思い出せないくらい洸夜の記憶から母親は薄れてしまっているけれど、捨てられてと言う事実だけはずっと心の中に留まり、絡まっていた。
 それが今、少し解けようとしているのだろうか。怒りで震え、事実を知る不安で震え、日和のされた事を考えると震える。怖かっただろうに、それなのに日和はギュッと色んな感情で震える洸夜の身体をしっかりと繋ぎ止めてくれていた。


「悠夜、教えてくれないか?」


 何度も深いため息をついては苛つき髪をぐしゃぐしゃにする悠夜。「あぁ、うざいな!」と吐き出すと憎しみが篭った黒い瞳で睨みつけてきた。刃物のような鋭い目つき。胸をひとつきで刺されそうだ。


「母さんは死ぬ時までずっとお前のことを気にしてたよ。ごめんね、ごめんねってお前の名前を呼びながら死んだんだ! ずっと一緒に二人で生きてきた僕じゃなくてお前の名前をな! 母さんはずっとお前の小さい頃の写真を手帳に挟んでたよ、お前の誕生日には金がないくせにケーキを買って僕と二人で食べてさ、悠夜には本当はお兄ちゃんがいたんだよって、優しい顔で言うんだよ、優しくて泣きそうな顔で。死ぬ最後の最後まで大切にされていた兄貴ってどんな奴なんだろうって気になって調べたら、うちとは違って裕福で何も不便がなさそうで、おまけに社長で女つき。そんなにたくさんのものを持ってるんだから一つくらい僕が貰ったっていいだろう! 僕は一人になっちまったのにお前はなんでもあるんだ。女の一人くらい貰ったっていいだろ!」

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