俺の世界には、君さえいればいい。
櫻井side




「…なにかあったのかな由比さん」



待ち合わせた時間は過ぎていた。


下駄箱を見るとローファーが入っているから、まだ校舎内にいるはずだ。

由比さんのクラスへ様子を見に行こうか迷ったけど、こうして待っている時間も俺は大切にしたかったから。


初めて本当に欲しいと思った女の子からバレンタインチョコが貰える。


毎年毎年この日は両手では抱えきれないくらいの数を渡されてきたけど、今年だけは誰だとしても断った。



「にしても遅いな…」



なにかあったんじゃないか。

メッセージを数件送ってはいたけど、返信も既読もない。


心配になって教室へ向かおうとしたとき、奥からゆっくり歩いてくる女の子がいた。

遠くを見つめるように、「…櫻井くん、」と俺を呼ぶ声も弱々しくて。



「由比さん…!なにかありましたか?遅いから心配して、」


「…ううん…、ごめんね、」



元気がない、覇気もない、というより俺と目を合わせてくれない。

いつもより小さく見えて、今にも消えてしまいそうにも見えた。



「っ、櫻井くん、」



ふるっと震えた唇をぎゅっと噛んだ由比さん。



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