俺の世界には、君さえいればいい。
「櫻井!足はどう?ちゃんと通院してる?」
「…平気です」
「もう、いつも無理するんだから。あとで見せてね?」
どんな顔で言ってるの、どんな気持ちで怪我の心配をしているの。
背中に聞こえた会話を見ないように私は走った。
我慢して、我慢して、我慢して、それで残るは───
「もう…大丈夫だよ、」
「…!」
日直で残っていた後藤さんに、そう伝えた放課後。
後藤さんはバレンタインの翌日から私によそよそしかった。
けれど何も言わない私に、どこか何かを感じていたのだろう。
はっと、今も震える目で見つめてくる。
「もう私は櫻井くんとは関わらない。だから…後藤さんも横山さんに縛られなくて、大丈夫だよ」
「…どう、して、」
あんなにひどいことをしたのにって?
やっぱりあのチョコレートは、私を陥(おとしい)れるつもりだったんだ…。
「ごめんね、後藤さん。…私のせいで後藤さんも苦しめちゃってたかもしれない」
「…バカじゃないの、」
「…うん。だから横山さんにも、そう伝えといてくれるかな…」
返事は無かった。
それでも私から逸らすように日誌に目を落とした後藤さんの手は、震えていて。
本当にバカだね。
私は本当にバカでバカで、それでも好きってこういうことだと思う。