俺の世界には、君さえいればいい。
「由比さん、」
「あっ、櫻井くん…」
そして俺の声は甘くなった。
もちろん由比さんに対してだけの特別だけど、自分でも甘すぎて恥ずかしくもなってくる。
これはもう無意識。
意識どうこうの話じゃないから仕方ない。
そんな昨日で部活は終わり、卒業式は明後日。
また担任に頼まれたのだろう。
放課後、花壇の水やりをしている由比さんを発見してすぐに駆け寄った。
「な、なんかね…櫻井くんにすごい噂が立ってるみたいで、」
「あ、“2年のアイドルをブサイク扱いした鬼畜”って異名が付いたやつですか」
「あれ…?私が聞いたのは…“2年のアイドルをゴミと化させたドSイケメン”って…なってたよ、」
「……いろいろ人によって違うみたいですね」
由比さんがそんな卑劣たる言葉をいじらしく言ってくるところが、俺的にはとんでもなく愛しさが込み上げてくる。
立てる人間によって内容までも変わってしまうのが噂というものだ。
だからもう、なんでもいい。
「由比さん、今日も…俺の家に来ませんか?」
「っ…、きょ、今日は…花壇の水やりがあるから…」
「待ってます。というか、俺も一緒にします」