俺の世界には、君さえいればいい。
その中のひとりに、見たことある女の子がいた。
私立だとしても一般の私立高校。
そこに家柄を隠して俺と同じように生活している隣クラスの子が、そのひとりだった。
その他はお嬢様学校に通う年上の女性ばかりで。
『…由比、さん』
『確か同じ学校だっただろう。知ってるのか?』
『…いや…話したことはないけど』
ただ少しだけ気になった。
いつも目立たないし、すれ違ってもお互い足すら止めない。
だけど同じ学校なら尚更どんな子なんだろうって。
由比グループの令嬢だというのに、それを一切隠して過ごす子が知りたくなったのだ。
『あ、てんとう虫だ…』
そしてある日、俺はたまたま由比さんと話す機会があった。
高校に入学して2ヶ月経った頃だったか、その日は部活の体力づくりで走らされて。
みんな道場外にある水飲み場へ向かったけど、俺は中庭のほうが空いていることを知っていたから。
やった、一番乗り───そんな気持ちで蛇口をひねっていると、花壇の水やりをしていた由比さんがいた。
しゃがみながら、てんとう虫に話しかけていて。