俺の世界には、君さえいればいい。




その中のひとりに、見たことある女の子がいた。

私立だとしても一般の私立高校。

そこに家柄を隠して俺と同じように生活している隣クラスの子が、そのひとりだった。


その他はお嬢様学校に通う年上の女性ばかりで。



『…由比、さん』


『確か同じ学校だっただろう。知ってるのか?』


『…いや…話したことはないけど』



ただ少しだけ気になった。

いつも目立たないし、すれ違ってもお互い足すら止めない。


だけど同じ学校なら尚更どんな子なんだろうって。

由比グループの令嬢だというのに、それを一切隠して過ごす子が知りたくなったのだ。



『あ、てんとう虫だ…』



そしてある日、俺はたまたま由比さんと話す機会があった。


高校に入学して2ヶ月経った頃だったか、その日は部活の体力づくりで走らされて。

みんな道場外にある水飲み場へ向かったけど、俺は中庭のほうが空いていることを知っていたから。


やった、一番乗り───そんな気持ちで蛇口をひねっていると、花壇の水やりをしていた由比さんがいた。

しゃがみながら、てんとう虫に話しかけていて。



< 48 / 253 >

この作品をシェア

pagetop