俺の世界には、君さえいればいい。
『キイロテントウは赤色よりいい意味があるんですよ』
気づけば声をかけてしまっていた。
それは小さな頃に読んだだけの図鑑知識。
ただ、黄色いてんとう虫に話しかける彼女が可愛く見えたから。
そんなふうに笑うんだって、でもてんとう虫だったら俺と喋ってくれてもいい、なんて思ったりして。
『そ、そうなんだ…。詳しいんですね』
『…すみません、なんか急に』
はっと意識が戻った。
急に恥ずかしくなって、早く部活に戻らなきゃと誤魔化すように水を飲んだ。
『ふふっ、じゃあ君は花に幸せを与えてるの?』
メルヘンだと思った。
シンプルに、ちょっと変わった子なんだろうなって。
てんとう虫に話しかけてるし、笑ってるし、なんかそれだけで楽しそうだし。
『あ、あの、教えてくれて…ありがとうございます』
『───…』
蛇口から飛び散る水の隙間から見えた、笑った顔。
キラキラと太陽に反射する水滴なんかよりも、ずっとずっと目映くて。
それは、言ってしまえば、笑顔にやられたようなものなんだろう。
だって花壇の水やりなんて雑用だ。
それでいて1人、友達もそこまで多くないんだろうなって。