俺の世界には、君さえいればいい。




『……決めた、』


『え…?』


『…いや、なんでもないです』



決めたのだ。

俺は、ここで決めた。


だってこの子は俺から話しかけられたことを心から喜んでいるわりには、それ以上を追求してこないから。

貪欲に求めてこないから。



『あ、向こうの花壇にもいるかなぁ…』



たとえばこんなふうに一緒に花を眺めて、虫を見つけて、流れる時間を緩やかに過ごす。

ぼーっと雲を数えるような時間も嫌いじゃないし、女子たちの忙しい声はいつも鬱陶しかったりする。


だからこんな時間を、たった今の部活の水分補給の合間に感じられたことが俺にとって何より特別だった。



『あっ!さっきの子、ここにいました…!』



俺のクラスにいる女子や、いつも近づいてくる女子。

それはすべて見返りを求めているものだったから。



『ふふっ、かわいい。わ、また飛んだ…』



だけど由比さんは違ったのだ。


てんとう虫に笑いかけて、その笑顔を俺にも向けてくれる。

そこに何かを期待してる目だってなくて、俺に何かを求めてる貪欲さだってない。


だけど彼女がもしそれを求めるようになっても、他とはちがう、謙虚でかわいいものなんだろうなって確信もあって。


俺はその日───…この人を守りたいって思った。



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