俺の世界には、君さえいればいい。
浮かれちゃってたのかな…。
それとも、ぼけーっとしすぎた…?
櫻井くんの甘さと優しさに慣れていない私は、とんだ失態を犯してしまった。
サァァァと青白くなりつつも水道へ駆け出して、カーディガンをすぐに洗う。
「どうしよう…っ、帰ったらすぐクリーニングに出さなきゃ…っ」
嫌われちゃう…。
貸さなきゃよかったって思われちゃう。
素材を傷めないように、優しく揉みこむように濯ぐ。
和服を扱う家に生まれた私には、その知識は十分なくらいに叩き込まれているけれど。
今はそれどころじゃなかった。
「……引っ掛かったんじゃない、」
つまずいたのは、つまずいたけれど…。
でもそれは故意的に出された何かによって、私はバケツに突っ込んでしまったのだ。
そう───…誰かの足によって。
ゆっこでは無いことは確かで、だってゆっこはそのとき私に背中を向けていたから。
「……だれ…?」
恨まれを買ってしまったのかもしれない。
櫻井くんとは学校でも挨拶はするけれど、噂は少しずつ減っていたはずなのに。
私たちは友達なんですって、そんなふうに関わってたはずなのに…。