俺の世界には、君さえいればいい。




浮かれちゃってたのかな…。
それとも、ぼけーっとしすぎた…?

櫻井くんの甘さと優しさに慣れていない私は、とんだ失態を犯してしまった。


サァァァと青白くなりつつも水道へ駆け出して、カーディガンをすぐに洗う。



「どうしよう…っ、帰ったらすぐクリーニングに出さなきゃ…っ」



嫌われちゃう…。
貸さなきゃよかったって思われちゃう。

素材を傷めないように、優しく揉みこむように濯ぐ。


和服を扱う家に生まれた私には、その知識は十分なくらいに叩き込まれているけれど。

今はそれどころじゃなかった。



「……引っ掛かったんじゃない、」



つまずいたのは、つまずいたけれど…。

でもそれは故意的に出された何かによって、私はバケツに突っ込んでしまったのだ。


そう───…誰かの足によって。


ゆっこでは無いことは確かで、だってゆっこはそのとき私に背中を向けていたから。



「……だれ…?」



恨まれを買ってしまったのかもしれない。

櫻井くんとは学校でも挨拶はするけれど、噂は少しずつ減っていたはずなのに。


私たちは友達なんですって、そんなふうに関わってたはずなのに…。



< 63 / 253 >

この作品をシェア

pagetop