俺の世界には、君さえいればいい。
けれどあまり使ったことはなかった。
それは毎日のように学校で顔を会わせるし、それ以外で連絡をする用途が無かったから。
たとえ婚約者だとしても、それを意識して連絡するほうが恥ずかしい。
「あの…櫻井くん、」
返事はなかったけれど、屈みこんでくれる。
172㎝程だという櫻井くんとの身長差は15㎝以上20㎝未満。
「カーディガン…もし汚れが取れなかったら、新しいの買うので……でも、本当にごめんなさい…」
「…許さないです」
「はあ?かなのがこんなに謝ってるのに!?それにわざとじゃないしっ」
すかさずツッコミを入れた、ゆっこ。
めんどくさい…なんて言うような櫻井くんの据わった目付き。
「俺はいま由比さんと話してる。お前じゃない」
「なっ…、ムカつく……。あたしこいつ嫌いだわ」
「それは良かった。俺も同じ」
「はーーいーー!?」
だから仲良くしてよ…2人共…。
どうして喧嘩しちゃうの…?
ゆっこも櫻井くんも、本当はすごく優しいのに…。
「由比さん、でも許すので…俺のお願いをひとつ聞いてくれませんか」
「…お願い…?」
それが私が聞ける願いなら聞きたい。
カーディガンのことはやっぱり怒ってるみたいだ…。
あのとき転ばないように私もできたんじゃないのって、過去の自分も責めておく。