俺の世界には、君さえいればいい。
「───っ!」
そんなとき、背中に迫り来る影。
黒い影が飲み込んでしまうように私たちのうしろに現れて。
「おわっ…!ビビったぁ…」
「す、スクリームだ…」
それはムンクの叫びのような。
ひょ~~!なんて声が出てきそうな仮面を取り付けた、真っ黒なマントに包まれる存在は私に自由を与えてくれた。
「だ、だれ…ですか…?」
私と晴哉くんの手を離してくれた彼に問いかけてみても、そのスクリームさんはコクッとうなずくだけだった。
「きゃっ!」
「あっ!由比…!おいどこ行くんだよ変なやつ…!」
追いかけてくる晴哉くんなんて相手にしない。
私の腕を引いて人混みに紛れてゆく、スクリームさん。
「あの…、えっと…どちら様ですか…?」
そしてまた返事もなく。
目当ての場所があるかのように、どこかへ足早に向かっていく背中。
黒いマント…幽霊…?
それに、掴まれた手の温かさ。
「さ、櫻井くん……?」
確信だと思う。
彼じゃなかったら逆に誰なのって不安になってくる。
止まることはなかったけれど、私が名前を呼んだ一瞬につかむ力が加わったから。