俺の世界には、君さえいればいい。
パシッ!パシ───ッ!
胴に面に、お互いが打っては引いて、押し合って弾(はじ)いて。
「…すごい…、櫻井くん押してる…」
肉眼では追い付けないスピードに、手に汗をにぎる思いで釘付けだった。
私がそれまで持っていた剣道のイメージは「メーンッ」って本当に言うのかと思っていたけれど、実際はそうではないらしい。
バッ!!と、揚げられた白旗の回数は3回。
「ねぇあとで櫻井くんに声かけてみようよ!」
「えぇ~、でも相手にしてくれないって有名だよ?」
櫻井くんが勝ち進めば勝ち進むほどに、応援席から見ていた女の子たちは騒ぎ出す。
やっぱり他校の子にも人気なんだ…。
モヤっ。
「………???」
いま、モヤって。
……モヤって…した…?
試合が終わって、丁寧に正座をしながら防具を外す櫻井くんを見るだけで背中から黄色い声が上がって。
ちょっとだけ私がいる方向の応援席を見ただけで、「きゃーーっ」なんて声援まで。
彼の人気度と知名度は並々ならぬものがあるらしい。
「つぎ勝てば決勝だ…」
それからたまに応援席に戻ってきてくれたから、そこで少しだけ会話を交えた。
すごかったことをたくさん伝えたいのに、格好よかったって言いたいのに、他校の女子生徒から話しかけられてしまって中断。